2023.08.25
2023.07 勁草書房
本書は、18世紀後半から20世紀後半の孤児や貧困児等子どもの救済事業に、医学や心理学が関与し、処遇や制度等を正当化する権威として機能していく様相を、欧米、植民地朝鮮、日本などのフィールドにおいて究明した共同研究である。医者や心理学者たちは、子どもの生命や心身の健康を研究対象とし、保護や救済活動のなかで自らの専門知の有効性や正当性、客観性を確立させていく。同時に、その過程で健康で正常、標準的な子ども規範の輪郭が徐々に鮮明化されていくのである。その具体的経緯に迫り、医学と子どもの関係の再考に寄与する。
子どもの教育、保護、福祉については、課題や理想像が語られることが多いと思います。そしてその多くが、それぞれの論者のなかにある規範意識に由来するものです。私たちは、日本だけではなく欧米や植民地朝鮮等、共著者の研究フィールドに定位し、そのような規範自体がつくられてきた歴史的経緯、その系譜に迫る研究を進めてきました。本著は特に医学や心理学が、子どもの生命や心身の健康に関与し始め、客観的真理を供与する知見として確立していく具体的様相に迫ります。
(人間環境学研究院 野々村淑子)
序章 医学が子どもを見出すとき[野々村淑子]
第Ⅰ部 「医学」による「子ども」の発見
第一章 一八世紀末アメリカの医学と子ども・家族の交差――ベンジャミン・ラッシュの医学理論と社会改革思想、家庭生活の連関に着目して[乙須 翼]
はじめに 第一節 医療による人間の身体と精神の健全さの保持 第二節 社会改革の要としての家庭 第三節 ラッシュの家庭生活と医学理論および社会改革思想の往還 おわりに
第二章 一八世紀イギリスの助産救貧をめぐる産み育てる身体の科学化――子どもの生命への配慮と女性産婆[野々村淑子]
はじめに 第一節 医療救貧のなかの女性産婆/男性産婆 第二節 女性による産婆術書の展開――産み育てる身体の構築 おわりに
第三章 一九〇〇年前後の岡山孤児院における看護と病気――看護婦の経歴と仕事に注目して[稲井智義]
はじめに 第一節 吉田いのの経歴と仕事 第二節 岡山県私立衛生会産婆及看護婦養成所の設立と概要 第三節 孤児院看護婦になった卒業生の経歴と仕事 第四節 岡山孤児院の病室と看護、衛生、看護科 おわりに
第Ⅱ部 医学調査と衛生管理
第四章 二〇世紀初頭ドイツにおける「危険にさらされた子どもたち」の保護と医療の介入――「ドイツ児童保護センター」での取り組みを中心に[杉原 薫]
はじめに 第一節 前世紀転換期ドイツにおける子どもを取り巻く医療の様相 第二節 「ドイツ児童保護センター」の設立と役割 第三節 「ドイツ児童保護センター」における取り組みの実際 おわりに
第五章 二〇世紀転換期イギリスにおける子どもの栄養をめぐる「科学」的な議論――学校給食実施過程に焦点をあてて[草野 舞]
はじめに 第一節 二〇世紀転換期イギリスの児童保護策の展開 第二節 子どもの栄養問題をめぐる「科学」の領域での議論 第三節 求められる学校給食の内容とその役割 おわりに
第六章 植民地朝鮮における都市細民「土幕民」の社会医学的調査――「生れながらの土幕民」の発見[田中友佳子]
はじめに――都市細民「土幕民」の問題化 第一節 社会医学・社会衛生学の流入――日本「内地」から植民地朝鮮へ 第二節 土幕民に対する生活調査と衛生調査 第三節 衛生調査における「土幕民児童」の存在 おわりに――「生れながらの土幕民」に対する不安
第Ⅲ部 発達心理学・児童精神医学
第七章 保護複合体と愛着理論――「論争」期の精神分析的子ども像をめぐって[松本由起子]
はじめに 第一節 ボウルビィイズム概観 第二節 愛着理論と「保護複合体」 第三節 精神分析的子ども像:「子どもを子どもとして見ることは可能か」 おわりに
第八章 アメリカ少年司法における医学の導入と展開――フィラデルフィア市立裁判所の医療活動(一九一四年~一九二七年)に着目して[大森万理子]
はじめに 第一節 少年裁判所における医学の導入と医療ソーシャルサービス 第二節 精神医学・心理学の重点化 第三節 少年非行の医学化の言説 おわりに
第九章 「戦災孤児」への心理学的関心――第二次世界大戦後の近江学園における知能検査と教育実践に着目して[野崎祐人]
はじめに 第一節 初期近江学園の生活と教育にみる「戦災孤児」像 第二節 知能検査実施と変容する「戦災孤児」へのまなざしと実践 第三節 教育実践の変容と施設役割の再考 おわりに
第一〇章 愛着理論の再浮上と施設養護の「家庭化」――一九九〇~二〇〇〇年代における乳児院の変遷を中心に[土屋 敦]
はじめに 第一節 背景 第二節 先行研究 第三節 研究視座 第四節 分析資料 第五節 一九九〇~二〇〇〇年代における「児童虐待」問題の構築と愛着理論の再浮上・再構築 第六節 乳児院における愛着理論の再浮上・再構築の軌跡 おわりに
終 章 孤児、貧困児、施設児と医学をめぐる子ども史[土屋 敦]
あとがき
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● 研究者情報
九州大学 人間環境学研究院 野々村 淑子(ノノムラ トシコ)
E-mail: nonomura.toshiko.868☆m.kyushu-u.ac.jp
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