2023.1.13
2022.08 九州大学出版会
グローバル化の進展は、国家・地域間において相互理解を深める機会を提供する一方、相互の摩擦や衝突を生み出す原因ともなっている。日韓間においても、双方向の関係が深まる一方で、それぞれの社会が内包する価値観の差異にも起因する壁が顕在化した面がある。こうした現実を乗り越えるためには、過去および現在の多様な現場で、不協和音が存在すればこそ、交流と共生への努力を不断に続けてきた人々の姿に注目する必要がある。
本書は以上の問題意識のもと、第1部では地域の論理がときに国家の論理を凌駕した中世の日韓境界海域の世界、第2部では韓国語の海外普及活動、九州大学が取り組んだ国際協働学習プラグラムなど現代の教育・文化交流に注目し、第3部では言語表現をめぐる問題をテーマとし、「相互理解」と「越境」をキーワードに、文芸活動からヘイトスピーチまで、多様な話題をとりあげている。
九州大学韓国研究センター叢書の第5巻である本書は、韓国国際交流財団の助成をうけて推進された同センターの学際プロジェクト〈東アジアにおける人の移動:日韓の交流と共生、および多様性の追求〉の成果です。同じ叢書の第4巻『日韓における外国人労働者の受け入れ:制度改革と農業分野の対応』の姉妹編であり、双方あわせて、経済学、歴史学、教育学、文学、言語学の研究者から、作家、映画人、法曹人にいたるまで、文字通り多様な人々が「交流」、「共生」するなかから生まれました。
韓国研究センターでは、現在、グローバル時代における韓国を見据えた、新たな学際プロジェクトを構想中です。
(人文科学研究院 森平雅彦)
第1章 中世対馬の海民と日朝交流
第2章 朝鮮三浦の倭人町形成と管理体制
第3章 朝鮮王朝の二つの対馬認識:15 世紀後半を中心として
第4章 美濃土岐氏による大蔵経請来と朝鮮:西日本以外の地域権力と朝鮮
第5章 航海からみた中世日朝交流:日本船の往来を事例として
第6章 通信使船が対馬海峡を渡るとき
第7章 日本における韓国教育院の役割変容
第8章 対外言語普及と「現地主義」アプローチ
第9章 アジア太平洋カレッジの挑戦:PBL/TBLで学び合う国際共同教育プログラムの構築
第10章 日本のヘイトと在日コリアンとしての生:ヘイトクライム,ヘイトスピーチのない社会をめざして
第11章 在日コリアン文学の現在
第12章 ディアスポラと労働・工作の表象:2014 年以後のチャン・リュル映画についての一考察
第13章 母語でない言語で書くということ:言語の重さと速度,そして距離
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● 研究者情報
九州大学 人文科学研究院 森平 雅彦(モリヒラ マサヒコ)
E-mail: morihira.masahiko.281☆m.kyushu-u.ac.jp
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