2022.11.05
2020.12 名古屋大学出版会
本書は、19世紀後半から第一次世界大戦勃発までという、世界経済の一体化が進んだ時代に、ロシア帝国がどのように世界経済と向き合ったかを、海運を通して研究したものです。中でも、1879年(正式な就航は翌年)からオデッサとウラジオストクとを結ぶ路線を中心に活動したロシア義勇艦隊という組織に着目し、義勇艦隊をめぐって交差する政治的思惑を、ロシアで集めた史料を主に使って考察しています。義勇艦隊は、長崎や敦賀にも寄港した点で日本ともかかわりがあり、茶の輸送のために中国や英領インドにも寄港し、日露戦争後の一時期は、大西洋を横断してニューヨークへも船を走らせるなど、その航路網は世界的な広がりを見せました。さらに、義勇艦隊と同時期に活動した他のロシアの船会社もあわせて研究することで、「陸の帝国」と呼ばれるロシア帝国が、海域にも乗り出していたことを明らかにした、世界的にも珍しい研究です。
私はもともと、第1部で扱ったロシア極東の歴史を研究していました。その延長で、第3章のテーマである茶貿易の史料をペテルブルグの文書館で探していた時、見つけたのが、本書のメインである義勇艦隊の史料です。以前から義勇艦隊の存在は知っていたものの、あまり重視していませんでした。しかし史料を読むと、ひょっとしたら世界経済とロシア帝国を結ぶ、かなり重要な存在ではないかと気が付きました。しかも、当時のロシアには他にも面白そうな船会社があり、いずれも史料はかなり残っているのに、ロシア人ですらほとんど研究していない。そこで、それから史料をかき集め、10年かけて何とかまとめたのが本書です。
(経済学研究院 左近幸村)
序 章 ロシア帝国と近代世界
第Ⅰ部 地域 —— ロシア極東の近代
はじめに
第1章 帝政期ロシア極東の農業と移民
第2章 無関税港制に見るロシア極東の変容
第3章 茶が結んだロシアとアジア
補論1 アムール川とスンガリ川をめぐる露中関係
第Ⅱ部 国家 —— ロシア義勇艦隊史
第4章 19世紀のロシア義勇艦隊
第5章 セルゲイ・ヴィッテの海運政策
第6章 商船化への道
第Ⅲ部 世界経済 —— ロシア海運の発展
第7章 ロシア東亜汽船と義勇艦隊の競争
第8章 北方汽船の模索
第9章 ロシア商船とオデッサ
補論2 スエズ運河の通航料問題
終 章 海から見たロシア帝国
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● 研究者情報
九州大学 経済学研究院 左近 幸村(サコン ユキムラ)
E-mail: sakon.yukimura.112☆m.kyushu-u.ac.jp
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