2023.04.03
2020.09 東京大学出版会
本書は、2016年6月に行われた政治経済学・経済史学会の春季総合研究会「経済史学とフレームワーク―その協働と相克の過程から」での報告と討論を基に作成された、論文集です。もとの企画のタイトルが示すように、歴史学全般をまんべんなく議論するのではなく、経済史が議論の中心になっています。「虚心坦懐に史料を読めば、自ずと普遍的真実が明らかになる」という研究姿勢(素朴実証主義)が歴史学で批判されて久しいですが、経済史は数値という一見客観的な素材を扱うことが多いだけに、ともすれば素朴実証主義に引きずられやすくなります。また、経済史家の中には、様々な経済理論を使う人もいます。これらの経済史の特徴に対し、先達がどのように向き合ってきたのか、本書では、戦前からの先人の業績も振り返りつつ、今後の歴史学や経済史の方向性について、日本史、外国史それぞれの観点から考察しています。
本書の表紙と裏表紙は、私が選びました。いずれも、19世紀前半のドイツの画家、C.D.フリードリヒの絵です。単純にきれいだということもありますが、本書の内容とも関連しています。表紙(窓辺の婦人)は、窓枠=フレームワークから外を眺める女性ですが、これはもちろん、研究者が自分の部屋(研究分野)から、窓枠を通してしか物事を見られないことを、示しています。対照的に裏表紙(雲海の上の旅人)は、山の頂から全体を眺めています。私たちはこのように全体を見渡したいと思いますが、実際はとても難しいことです。学問というフレームワークを通じて、私たちがいかに物事を見つめるかを、これらの絵に託しました。
(経済学研究院 左近幸村)
はじめに(左近幸村)
序 章 「事実をして語らしめる」べからず―職業としての歴史学(恒木健太郎)
第1章 戦後日本の経済史学―戦後歴史学からグローバル・ヒストリーまで(恒木健太郎・左近幸村)
[コラム1]「日本経済史」という「学統」(高嶋修一)
第2章 「転回」以降の歴史学―新実証主義と実践性の復権(長谷川貴彦)
[コラム2]帝国主義史研究とフレームワーク(柳沢 遊)
第3章 「封建」とは何か?―山田盛太郎がみた中国(武藤秀太郎)
[コラム3]山田盛太郎の中国観と経済史学の現在―武藤論文によせて(石井寛治)
第4章 経済史学と憲法学―協働・忘却・想起(阪本尚文)
[コラム4]元・講座派の技術論―戦時中の相川春喜における「主客の統一」の試みと科学技術の「民族性」(金山浩司)
第5章 歴史学研究における「フレームワーク」―インド史研究の地平から(粟屋利江)
[コラム5]歴史を書く人,歴史に書かれる人(井上貴子)
第6章 「小さな歴史」としてのグローバル・ヒストリー―1950年代の新潟から冷戦を考える(左近幸村)
[コラム6]アメリカ合衆国における「近代化論」再考(高田馨里)
第7章 読者に届かない歴史―実証主義史学の陥穽と歴史の哲学的基礎(小野塚知二)
あとがき(恒木健太郎)
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九州大学 経済学研究院 左近幸村(サコン ユキムラ)
E-mail: sakon.yukimura.112☆m.kyushu-u.ac.jp
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