イベント情報
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終了第35弾企画
学問の種を保存する―知的インフラとしての大学図書館
2025.11.13
2025年度、九州大学図書館所蔵『金光明最勝王経』(奈良時代写、平安中後期点)が、国の重要文化財に指定されることが決まりました。それを記念いたしまして、人社系協働研究・教育コモンズでは、11月7日に「学問の種を保存する―知的インフラとしての大学図書館」を下記の通り開催いたします。みなさま奮ってご参加ください。
大学図書館には、専門的な研究書や一次資料など、学術的に価値ある資料が多数収蔵されています。そうした資料の中には、文化財としての意義を持つものも少なくありません。たとえば、九州大学に所蔵されている平安時代の訓点資料『金光明最勝王経』には、奈良写経という歴史的・文化的価値、仏典としての宗教的価値に加え、当時の日本語の読解法や言語使用を知る手がかりとなる、国語学的な価値も備わっています。このように、大学図書館が保有する資料は、文化財としても、文献資料としても、そして研究資源としても重要であるという、多面的な価値を持つものです。
こうした多様な価値を正しく理解し、適切に保存・管理・活用できるのは、専門的知識と体制を備えた大学図書館ならではといえるでしょう。それらの資料の価値は「今」だけで計れるものではありません。学術研究は常に進化しており、今は注目されていない資料が、将来の研究の鍵を握ることもあります。資料の保存は、過去から未来へと学術知の連続性を保つための基盤であり、大学図書館はその持続性を支えるインフラとして大きな役割を果たしています。
本企画では、大学図書館が担う「保存」と「研究支援」に注目し、学術的・社会的に果たすべき役割について改めて考えていきます。大学における資料保存の方針や、文化財的価値のある資料の継承、そして潜在的利用者に向けたアーカイブ戦略の重要性についても議論を深めていきます。本企画を通じて、大学図書館の多面的な意義と将来にわたる可能性を広く共有する機会となることを目指します。
本企画は、Kyushu University Asia Week 2025の一環として開催します。
▶ 日時:2025年11月7日(金) 13:00~16:00
▶ 話題提供:
田村隆 (東京大学大学院総合文化研究科准教授)
「国文/17F」
山根泰志 (九州大学附属図書館)
「文庫たちの過去と未来」
▶ ディスカッサント:
伊東達也(山口大学人文学部准教授)
菅史彦(九州大学経済学研究院准教授)
▶ 司会・企画:
蛭沼芽衣(九州大学人文科学研究院助教)
▶ 場所:九州大学中央図書館4階 Sky Cute.Commons
オンライン会議形式(Zoom)
▶ 共催:
九州大学附属図書館
九州大学人文科学研究院
九州大学大学院統合新領域学府ライブラリーサイエンス専攻
九州大学アジア・オセアニア研究教育機構
九州大学社会連携推進室 科学コミュニケーション推進グループ
▶ 後援:
九州大学法文学部創立100周年記念事業実施委員会
参加申し込みは下のフォームからお願いいたします。ご登録いただいたメールアドレスに、シンポジウム前日、開催場所のURLをお送りいたします。
参加記
シンポジウム「学問の種を保存する―知的インフラとしての大学図書館」に参加して
九州大学大学院人文科学府 西山 隼生
2025.01.14
本稿は、2025年11月7日に開催されたシンポジウム「学問の種を保存する―知的インフラとしての大学図書館」の内容と、私が参加した感想を述べる「参加記」である。
初めに、企画・司会の蛭沼芽衣先生(九州大学人文科学研究院)から趣旨説明がなされた。2025年度に国の重要文化財に指定された、九州大学図書館春日文庫所蔵『金光明最勝王経』を紹介した上で、研究資料が失われないよう保存しつつも、多くの人が資料を手軽に閲覧できる環境を整えるという、大学図書館が果たすべき役割を改めて考える姿勢を、資料の「デジタル化」の観点から示された。
このような趣旨説明の後、図書館を「利用する側」である田村隆先生(東京大学大学院総合文化研究科)と、図書館を「運営する側」である山根泰志氏(九州大学附属図書館)のお二方による講演を拝聴した。田村先生は、九州大学在学時に資料を独自に分類して保管した過去を語りつつ、いくつかの九大所蔵資料を自身の研究分野と絡めて紹介された。そして、多くの人が手軽に閲覧できるデジタル資料と、各図書館等が所蔵している紙の資料のそれぞれのメリットを述べ、利便性に長けたデジタル資料も、紙の資料あってのものであることを主張された。また、学習や研究を行う場としての図書館の利用価値についても言及された。私も一次資料を閲覧する際、デジタル資料を利用することが多いが、そのデジタル資料の信用性を保っているのは、基となる紙の資料の存在であるということを念頭に置くべきだと痛感した。
山根氏は、九大が所蔵する文庫を紹介し、旧蔵者の情報等によって文庫に新たな価値が加わること、そして、そういった文庫を各図書館は正確に保存していく必要があることを述べられた。さらに、旧蔵者の子孫と交流を行ったり、他機関と連携して、様々な文庫を閲覧できる環境を整えたり、学生が文庫に触れる機会を設けたりなど、研究資料としての文庫の価値を保つために図書館が行っていることを紹介された。講演の最後に述べられた、「文庫は大学の象徴である」というお話を受けて、私も九州大学に所属している身として、大学の先人達の蔵書に触れることができるこの環境をもっと活用したいと感じた。
以上の講演を受けて、ディスカッサントの先生方と蛭沼先生を含めた、登壇者五名での議論が行われた。伊東達也先生(山口大学人文学部)は、資料のデジタル化が進むことによって、紙の資料の閲覧環境が十分に整備されなくなる可能性を示唆された。そして、紙の資料からしか得られない情報があることから、デジタル資料と紙の資料は相互依存的に、お互いのデメリットを補完し合うように存在しているという見解を述べられた。この意見に関しては、講演者のお二方も賛同され、特に山根氏は、準貴重書室利用レクチャーなどを通して、紙の資料を閲覧する環境を整備していることを改めて述べつつも、様々な資料をデジタル化しておくことによって、今は注目されていない資料が、いつか必要とされた際に、すぐに閲覧できるということを、資料のデジタル化のメリットとして付け加えた。
また、菅史彦先生(九州大学経済学研究院)は、勉強をする空間として図書館を利用していた学生時代の経験から、未来の研究者を育てるという点において、図書館という空間はある意味では、「学問の種」を保存しているという、新たな見解を示された。また、図書館の所蔵資料をあまり利用しない立場から、図書館の運営体制について、保存する資料の線引きや、デジタル資料の改ざん、消失などに対する策などの質問をなされた。それに対して山根氏は、保存する資料には基準があり、恣意性は介在しないこと、デジタル資料にはバックアップが存在していることなどを述べられた。
最後に、オーディエンスも交えた議論が行われ、大学図書館が持つ役割について全体で改めて考えた上で、シンポジウムは閉会となった。
シンポジウム全体を通して、「研究に一番近い場所に位置している図書館である」という大学図書館の特性について言及されることが何度かあった。大学で研究をする身として、私はこの話題が一番深く印象に残った。多くの資料がデジタル化されている今日では、紙の資料に頼る機会も減ってきているが、大学図書館の所蔵資料を手軽に閲覧できるのは、その大学に所属する者の特権なのだと感じた。田村先生は議論の途中、紙の資料を手に取ってみて初めて発見できることもあると述べられていたが、私もそのような発見に出会える機会に恵まれている今の環境に感謝し、より積極的に大学図書館を利用しようと思えた。
当シンポジウムに参加するまでは、ただ便利なものとして大学図書館を捉えていたが、その利便性を維持するために、様々な努力と工夫がなされていることを学んだ。また、大学図書館はただ便利というだけでなく、学術知の連続性を保つための基盤であるという、新たな認識が私の中で生まれた。紙の資料とデジタル資料のどちらかに偏るのではなく、そのどちらも閲覧できる環境を整備している大学図書館は、資料の「保存」と「公開」という二つの役割を、様々な需要に応えながら両立しており、まさに「知的インフラ」として機能している。その役割の重要さを十分に理解した上で、学生や研究者が大学図書館を適切に利用することで、初めて学問が持続的なものとして受け継がれると言える。大学図書館が持つこのような役割が、多くの利用者に共有された当シンポジウムは、非常に有意義で学びの多いものであった。