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終了第33弾企画 シンポジウム

社会とつながり、次世代を育てる―大学の社会貢献・社会連携を問い直す―

2025.06.20

 6月20日に人社系協働研究・教育コモンズの第33弾企画シンポジウム「社会とつながり、次世代を育てる―大学の社会貢献・社会連携を問い直す―」を開催いたします。


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 九州大学では、「総合知で社会変革を牽引する大学」を2030年に目指す姿と定め、実現に向けて「VISION2030」を策定しました。そのVISION5「社会共創」で、「知の拠点として地域社会やグローバル社会と共生・共創し、研究教育活動を通して社会の持続可能な発展と人々のウェルビーイングの向上に貢献する」というビジョンを掲げており、より積極的な社会との結びつきが大学に求められています。

 これまで九州大学の人文社会系分野でも、多様な取り組みを積み重ね、社会との関わりを築いてきました。その一つとして、大学の枠をこえて、広く社会や地域とつながるなかで次世代の育成に取り組む試みが挙げられます。

 そこで、本シンポジウムでは、九州大学の人文社会系分野における社会貢献・社会連携のこれまでの実践と今後のあり方について、「社会とつながるなかで次世代を育てる」取り組みに着目し、考えていきます。

▶ 日時:2025年6月20日(金) 13:00~16:00

▶ 開会挨拶:元村有希子(本学理事)

▶ 話題提供:

伊藤千尋 (人文科学研究院)

「研究と社会科教育をつなぐ試み:「地理総合」教科書執筆の経験から」

浦川邦夫 (経済学研究院)

「自治体データの活用によるEBPMの取り組み:福岡県との共同研究事業を通じて」

▶ ディスカッサント:

岡 幸江(人間環境学研究院)

吉岡瑞樹(基幹教育院/科学コミュニケーション推進グループ)

▶ 司会:

国分航士(人文科学研究院)

木下寛子(人間環境学研究院)

▶ 場所:九州大学伊都キャンパス E-A-239会議室

オンライン会議形式(Zoom)

▶ 共催:

九州大学アジア・オセアニア研究教育機構

九州大学社会連携推進室 科学コミュニケーション推進グループ

▶ 後援:

九州大学法文学部創立100周年記念事業実施委員会

参加申し込みは下のフォームからお願いいたします。ご登録いただいたメールアドレスに、シンポジウム前日、開催場所のURLをお送りいたします。

お問い合わせ

九州大学人社系協働研究・教育コモンズ

E-mail: enquiry-commons★cmns.kyushu-u.ac.jp

(★を@に変更してください)

参加記

人文・社会科学による社会連携・社会貢献の形
――シンポジウム「社会とつながり、次世代を育てる」に参加して――

九州大学大学院人文科学府 田代恵悟

2025.12.12

 本稿は、2025年6月20日に開催されたシンポジウム「社会とつながり、次世代を育てる――大学の社会貢献・社会連携を問い直す――」の参加記である。以下、当日の内容と参加した感想を述べたい。

 初めに、本学理事でサイエンスコミュニケーションを専門とする元村有希子先生から開会挨拶があった。自身が教鞭をとられる経験も踏まえながら、学問の細分化が現代の学生に与えている影響などのトピックとともに、解決策が唯一でない負の社会的課題に対する「最適解」を提示できる人社系の学知への期待が示された。

 司会・企画の国分航士先生(人文科学研究院・日本近現代史)による趣旨説明ののち、お二人の先生から話題提供を受けた。伊藤千尋先生(人文科学研究院・人文地理学)は、専門のアフリカにおけるフィールドワークを基盤とした地域研究の成果を、いかに地理教育(教科書執筆)に還元したのかを紹介された。結論として、ローカルな事例から地域観や人種問題といった社会的課題を発見する教授法を効果的ならしめるために、教員養成機能も有する大学における研究教育機能が果たす役割や様々なチャンネルと協働する意義を指摘した。

 浦川邦夫先生(経済学研究院・公共経済学)は、いわゆるEBPM(Evidence-Based Policy Making)に参画した経験として、福岡県が収集した多様な個票データを分析し、その結果を政策に反映させる手法であるロジックモデルを作成するに至るまでの過程を提示された。以上の経験は、社会的課題がどこに所在し、何を解決すべきなのかが明確化したこと、さらに、自身の研究関心の拡がりや、作業の一部を学生と協働することでその主体性が涵養される教育的効果も有したと結論された。

 以上の2報告を受け、ディスカッサントの先生方からコメントを得た。吉岡瑞樹先生(基幹教育院・素粒子物理学)は、長年運営に携わる「サイエンスカフェ・ふくおか」の事例を基礎に、持続的なフォーラムの存在が社会連携・社会貢献活動の基盤となること、他方で、それを維持することの難しさを提示された。そして、2021年に施行された科学技術イノベーション基本法で人社系分野も「科学技術」の内に定義されたことに触れ、少数ながらも実践されている人社系の社会連携・社会貢献活動の「点」を結ぶ必要性を示した。

 岡幸江先生(人間環境学研究院・社会教育学)は、本シンポジウムの趣旨に関わる点として、大学の社会連携・社会貢献活動を人社系の立場から問い直す意味や、大学の研究教育機能を踏まえたときに、「社会とのつながり方」や「次世代の育て方」に多様な解釈がありえることを指摘した。そして、吉岡先生も含む3名の登壇者へ、活動に取り組んだ際のマインドや、その際にとった研究者としての立場といった視座から問いが投げかけられた。

 岡先生のコメントを皮切りに、国分先生も交えた登壇者5名と参加者とのディスカッションに移った。もっとも、議論を細大漏らさず再構成することは容易ではないため、私の印象に残った2つの話題を紹介することで代えたい。

 第一は、岡先生も指摘された、育てられる「次世代」の指示対象についてである。伊藤報告には教科書を用いて学ぶ生徒という「次世代」として想起されやすい主体が確認されたが、それのみならず、例えば浦川報告においては、政策を立案する自治体職員もまた、社会連携活動によって育成されるべき主体とされた。岡先生から、近年の自治体の人材養成機能に陰りが見えつつあるとの感覚も示されるなか、大学が社会と連携することで育成される主体の幅広さが実感された。

 第二に、社会連携・社会貢献活動の限界にも言及された点が意義深く感じられた。例えば、浦川先生の事例には、非公開なデータを用いた共同研究の研究倫理的問題が存する。また、万能ではない学術がもつある種の「限界」を示すこともまた、該活動における研究者の役割の1つであるという指摘には、大学が果たすべき責任の一つが表れているように聴いた。

 以上、本シンポジウムの内容や議論の展開を紹介してきた。私にとって、社会連携・社会貢献という言葉には、「社会」の存在が抽象的でどこか捉え難さを抱いてきた。しかし、本シンポジウムで紹介された諸事例には、学校現場やアフリカ、福岡、「地元」といった確かな輪郭を有する空間を往還する、従前の私が抱いていた像からすれば非常に具体的で多様な社会連携・社会貢献活動の形があった。

 人社系(文科系)学問では、普遍的結論に向かって、ある特定の問題を「例証」する論じ方が一般的な方法の一つである。その過程で得られる具体的な地域や対象を基盤とする社会連携・社会貢献活動は、ともすれば人社系のディシプリンと非常に親和的な在り方の1つなのでないだろうか。換言すれば、かかるディシプリンを基に研究教育活動に関わる研究者や学生の数だけ、その相手先や方法は多様なはずである。

 もちろんその裏面に、隣接分野の模様が見えにくいという課題があることも、討論中度々指摘されたところである。それを突破する仕掛けの1つが、サイエンスカフェやこのシンポジウムを主催した人社系協働研究・教育コモンズのような、持続的かつ包摂型のフォーラムになるのだろう。その意味で、人社系の多様な実践が共有され、一般市民の方の参加もあったこのシンポジウムもまた、一つのフォーラムとして機能し得たのではないかとの感想をもった。